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白い付箋

映画とか日常とか

【映画感想】グランドピアノ 狙われた黒鍵

映画

今週のお題「映画の夏」

過去の映画感想サルベージ。

「グランドピアノ 狙われた黒鍵」という作品の感想です。

 

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違う
『ラ・シンケッテ』

映画「グランドピアノ 狙われた黒鍵」

(監督:エウヘニオ・ミラ 脚本:ダミアン・チャゼル)

 ― トム・セルズニック

 

好きなシーンが基本的に無言、というか表情が物語る場面なのでセリフの引用が難しい…。公開されるのを楽しみに待っていた作品でした、とても良かったです。

無駄のないサスペンスストーリーに、厨二心をくすぐるギミックもあり。

音楽も演出も役者さんの演技も素晴らしくて、映像も構図などいちいちかっこいいんだこれが。

実写作品では珍しいらしいのですが、撮影前に動画コンテ(アニマティックスというらしい)を作り、イメージボードが実際に撮影可能な画なのかを確かめてから撮影に入ったそうです。へええ。

あと、原題のロゴがよく見るとピアノの鍵盤を模していてオシャレ。エンドロール最後で観られますが、邦題ロゴではこれが消えてしまっているのが残念だなあ。でも邦題ロゴは繊細なイメージで本編に似合っているなあとも思います。

 

以下ネタバレ。

 

映画に限らず、小説でも絵画でも「もしも自分が、この作品の登場人物の誰か好きな役やっていいよ!と言われたらどの人がいいか?」と考えるのが好きなのですが、グランドピアノではウェインです。ウェインのキャラクターは非常においしい。かわいそうだけど。

主人公トム役は想像しただけでしんどいです。しかし、めちゃくちゃ悲惨な状況なのに、悲壮感を(いい意味で)あまり感じず、ほのかに頼もしさや清涼感を感じるのはイライジャ・ウッドが演じているおかげなのかなー。トムがなんとかして状況を打破しようと必死に工作するさまは観ていてわくわくします。とっさに機転ききすぎだろう!そして、脅されたからではなく観客のためにとラ・シンケッテに臨む姿の清々しさと、滲む狂気めいた熱意。うーん、かっこいい。

奥さんである女優エマのキャラクターもとても良かった。
サスペンスものにありがちな「単なる人質用家族キャラ」に収まらない、
息をつく間もない本編の中で、貴重な癒しの存在。
夫の異常に気づいてすぐにでも駆けつけたいのに、ファンサービスを求めてくる人達を振り払ったりしない、できないんですよね。小さな女の子とのシーンは、女優としてのプロ根性と、エマ本人の人間としての性格、優しさを見ました。
トムはいい人と巡りあえたんだなあ・・・。

スナイパーはクライマックスまで姿を現さずイヤホンを通じて声だけが聞こえるのだけど、ふと言わずにはいられなかったというような声色でトムの演奏を褒めたり、ピアノに対する想いを感じるセリフが登場するのがイイ。
ただの泥棒ではなくて錠前屋、この設定も好きです。

そもそも、ピアノを盗んでさっさと壊して中からカギを出せばよかったのに、
わざわざまどろっこしい「正規の方法」でカギを取り出そうとしたのは、
カギを開ける錠前屋としてのプライドなのか、
ピアノを傷つけたくないからなのか、
その両方なのか?

こなごなになってしまったピアノを前にして、トムが最後の4小節を引ききったのは「彼がピアニストだから」だと思うのですが、スナイパーの計画を失敗させ命を落とさせたのは、彼自身の中にある音楽への愛、ピアノそのものへの愛、天才ピアニストという存在への愛、でしょう。

明言されないかわりに、こういう想像を巡らせる余韻が残るのが心地よい作品。

 

(2014年3月9日)